鼻緒挿げの技術について

間違った知識が伝わる理由

浅草和装履物店 辻屋本店 四代目 富田里枝です。
履物専門店が珍しい存在になった今、足に合わせて鼻緒を挿げてもらった経験のない人が圧倒的に多くなりました。
下駄や草履は呉服店やデパートの呉服売り場、あるいはインターネット通販で購入するパターンがほとんど。

着物の知識はあっても、履物についてはよく知らない店が販売していたりすると、「歩きやすいかどうかは、鼻緒の挿げ方しだい」という一番重要な点が消費者にまったく伝わりません。

「草履は台のクッション性があるほどよい」「鼻緒は太くて柔らかい方が履きやすい」「鼻緒を緩くすれば痛くならない」と思い込んでいる人が多いのは、おそらく履物専門店ではない店や、専門店で購入した経験のない人から、そのように聞かされているからでしょう。

鼻緒を挿げる技術が履き良さのカナメ

草履も下駄も、台や鼻緒の素材・仕立てはもちろん大切ですが、なにより大事なのは鼻緒が足に合っていること。
つまり鼻緒を挿げる技術が大切なわけです。
ただ単にきつくしたり緩めたりするだけでなはく、足の幅や甲の高さに合わせて鼻緒のカーブを決めるのが肝心。
またヒトの足は左右で大きさや形状が違うことが多いので、それぞれにぴったり合うように調整することが必要です。

ちゃんと足に合わせれば、鼻緒が細くても、固い革素材でも、痛くならずに履くことができます。

こちらの記事もご参考に。
辻屋本店ホームページ【豆知識】
「意外と‘真逆’に勘違い?知らずに買うと痛い目にあう下駄の5つの常識」 https://getaya.jp/knowledge/common-sense/

「挿げ職人」の違い

鼻緒挿げ職人には2種類あります。
デパートや呉服店、着付け教室などの催事で、履物店の看板を出さずに挿げている職人。
こういった職人は普段、個々のお客様ではなく、問屋やメーカー向けに鼻緒を挿げています。


一方で、履物専門店に常駐している職人。
来店された目の前のお客さまの足に合わせながら、その場で鼻緒を挿げています。

どちらも鼻緒を挿げる職人ではありますが、問屋やメーカー向けの職人は一足いくらで挿げている場合が多く、ひとりひとりの足に合わせる挿げ方はしていません。
例えていえば、デパートやスーパーの食品売り場に並んでいるパックに入った寿司を握っているような感じと考えてください。


対して専門店の職人は、お客様それぞれの足にフィットするように挿げるのが仕事です。こちらは寿司屋のカウンターごしに目の前で握っている寿司職人。その日のネタやお客様の好みに合わせて握ってくれますよね。

このように、呉服屋さんの展示会に出張してくる職人に鼻緒を挿げてもらうのと、毎日目の前のお客様向けに鼻緒を挿げている履物専門店の職人に挿げてもらうのとでは、履き心地が違うのは当然なのです。

さらには、専門店であっても店あるいは職人によって鼻緒の挿げ方が違いますし、技術力にも差があります。
草履や下駄を選ぶ際には、デザインや素材、サイズだけでなく、どの店で挿げるかということも考慮していただきたいです。


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